2022.03.22

4種ブランドの“いいとこどり”
じっくり時間をかけて育てた愛媛の地鶏

いなほ農園がある愛媛県八幡浜市は、宇和海に面し、一年を通して温暖な気候と自然豊かな環境に恵まれる。全国でも有数の温州みかんの産地として知られる八幡浜。鶏舎に向かう道からは、穏やかな宇和海と鮮やかな柑橘が一望できる時期もある。大切にしたい日本の原風景の一つだ。山頂の澄み切った空気と燦々と降り注ぐ太陽のもとで、いなほ農園の媛っこ地鶏はのびのびと育てられている。

今回お話を聞いた方
いなほ農園 農園長
井伊 敏郎さん
II TOSHIRO
2006年、いなほ農園の開園当初から農園長を務める。旧西宇和郡三瓶町(現在の西予市の一部)時代に町長を2期務めたのち、大学の先輩であるいなほ農園代表の三瀬泰介氏とともに同園を立ち上げ。現在は自宅近くで柑橘栽培も手掛ける。
2006年、いなほ農園の開園当初から農園長を務める。旧西宇和郡三瓶町(現在の西予市の一部)時代に町長を2期務めたのち、大学の先輩であるいなほ農園代表の三瀬泰介氏とともに同園を立ち上げ。現在は自宅近くで柑橘栽培も手掛ける。
地鶏の“サラブレッド“
「媛っこ地鶏(ひめっこじどり)」は、2002年に愛媛で生まれたブランド地鶏。「名古屋種(名古屋コーチン)」、「愛媛系ロードアイランドレッド」、「軍鶏」、「ホワイトプリマスロック」を掛け合わせた、全国でも珍しい四元交配の地鶏だ。コクとうま味があり脂のりが良く、歯ごたえのあるしっかりとした肉質が魅力。4品種それぞれの強みを活かした媛っこ地鶏には、飼育期間や環境など細かい飼育基準が定められる。厳しい飼育基準を満たした鶏が「媛っこ地鶏」として出荷されるのだ。
ゼロからはじまった養鶏
農園で日々汗を流す農園長の井伊敏郎さん。「以前は三瓶町長(現在の西予市の一部)を務めていたのですが、ちょうど市町村合併を機に退任した頃でした。早稲田大学の先輩だった三瀬さんから、お前も手伝わないかと声がかかったんです」と井伊さん。 長らく地元で事業を行っていた三瀬さんが、地域の高齢者雇用の解決にもつなげたいとの想いから始めたのがこの農園事業だ。二人とも鶏のことは何も知らない状態だった。鶏の育て方や鶏舎の管理方法は、県内の養鶏所を回って一から学んだ。実は、いなほ農園の名前は、早稲田大学の「稲」に由来する。 「土地も自分たちで探して、南に面した日当たりの良い場所に鶏舎を構えることにしました。管理舎だけは作ってもらって、鶏舎は建築士の資格を持つ私が全て建てました」。 最初の雛を迎えたのは2007年のこと。初めから上手くいくことばかりではなく、失敗や意見の対峙もある中、試行錯誤を重ねた。100羽の雛から始まったいなほ農園は、今や17棟の鶏舎をもつ県内有数の生産者となった。
高級焼き鳥店も惚れ込む味
いなほ農園の媛っこ地鶏は、県内はもちろん関東圏の高級焼き鳥店へも出荷される。うま味や肉質は、日本三大地鶏の一つ秋田の比内地鶏に並ぶと評する料理人もいるほどだ。これほどに支持される理由は、いなほ農園が時間をかけて積み重ねてきた独自の生産体制にある。
飼育期間の長さと美味のヒミツ
いなほ農園では、生後約60日から雄と雌を分けて飼育する。鶏がストレスなく育つように、雌雄だけでなく飼育期間ごとにも鶏舎を別にしている。生後60日くらい経つと、雄の力が強くなり雌を傷つけてしまうことがあるからだ。  初めて出荷直前の地鶏を見ると、体の大きさにまず驚く。通常の養鶏場は、基準である80日間飼育するとすぐに出荷するが、いなほ農園では基準を大きく超えて120~150日間も育てるのだ。そのため、体つきが全然違う。出荷時には一羽ずつ捕獲し、雄は4kg、雌は3kg以上あるかを必ず確認する。雄は凛々しく、雌はしなやかな雰囲気だ。穏やかな性格が肉質にも表れているのか、雌は雄よりも柔らかく甘みがある。 「雌は長く飼えば飼うほど柔らかさが増すため、もっと長い期間育ててくれないかと言われることもある」という。それほどに、一度口にした美味さを忘れられない。
体をつくる餌の工夫
米や小麦などの穀物に加え、いなほ農園の鶏が餌とするのは、県内の菓子メーカーから譲り受けた規格外のカステラやどら焼きの生地もある。「グラウンドに撒くと、我先にと取り合いながら、あっという間に平らげてしまいます。人間と同じで、鶏も大好きなお菓子。栄養価が高いぶんより成長を促し、大きな地鶏になる」と語る井伊さん。
飼育環境
衛生管理は、特に入念だ。「出荷後には、空いた鶏舎を綺麗に洗って消毒し、1ヵ月間しっかり乾燥させることで菌の繁殖を防ぎ、衛生的に保っています。養鶏を始める前に様々な養鶏場を見学させてもらった時に、鶏舎を清潔に保つ方法や環境づくりの大切さを学びました」。いなほ農園では、17棟ある鶏舎を順番に使い分け、出荷後の鶏舎は必ず完全に空ける。風を通して空気を入れ替えることで、清潔な鶏舎に新たな雛を迎えられるようにしている。時間をかけて、大きく育てられた媛っこ地鶏。その高品質たる由縁は、井伊農園長を中心に日々地鶏と向き合い続ける作り手の修練にほかならない。